
しばらくぶりに、実家に帰ったとき、いままで片付いていた家が散らかっていたり、庭の雑草が伸びていたが伸びていたり、洗濯ものが積んであったりなど、家の様子がいつもと違ったりと感じたことはありませんか?
NHKの「あさイチ」では11月に「心配!親の家事力が衰えた?」というテーマの特集されました。
そう言われてみると実家に帰ったときなどにそんな気がしたことがある、という人も少なくないはずです。
高齢になれば、今まで簡単にできていた家事ができなくなったり、やる気がなくなって後回しにしたりすることが多くなりがちです。
「得意の料理をあまりしなくなった。」など、実家の様子がいつもと違うと感じてきたら親の家事力が衰えているかもしれません。
生活不活発病の入り口かも!!
今回は親の家事力低下の兆候と、その有効な対策について解説します。
1. 最近、親の家事力の衰えを感じませんか?
老夫婦だけ、高齢者一人だけの世帯が増えています。
65歳以上の老夫婦または老人一人暮らしの高齢者世帯は全国で約1,137万世帯あり、そのうち75歳以上の高齢者世帯が428万世帯あります。
久しぶりに実家に帰ると、庭の雑草が伸びていて、玄関回りもどことなく片付いていないなど、いつもと様子が違うことに気づいたことはありませんか?
家に上がってみると、リビングには何日分もの新聞が積まれていて、猫が食べた食器もそのまま、などということになると、あんなにきれい好きだったお母さんがどうしたのと気になりますね。
もしかするとそれは親の「生活不活発病」が原因かもしれません。
そのままにしておくと、ますます家事力が低下するだけでなく、老化の進行が早くなる恐れがあります。
ふだん一緒に暮していないだけに余計心配になりますが、離れた親の家事力をアップさせるにはどうしたら良いのでしょうか。
2. 親の家事力低下の兆候はどこに出るのか
対策を考える前に、親の家事力の低下はどんなところに出てくるのかを見ておきましょう。
1) 食事・料理
・たまに実家に帰ると食べきれないくらい郷土の料理を並べてくれていた食卓が、品数が少なく淋しくなった。
・ぬか漬けを漬けるのを止めてスーパーで漬物を買うようになった。お惣菜も出来合いのものを買うことがある。
・老人だけのときはいつも同じようなメニューの食事をしているらしい。
・食事の準備に時間かがかかり、同時に2~3品を作ることができない。
・味付けや盛り付けにも、以前のようなひと手間かける工夫がない。
・使う食器が限られてきた。
・料理の主導権を嫁に任せる
2) 収納・整頓
・テーブルの上に新聞や郵便物が置きっぱなしになって、食事スペースが狭い。
・取り入れた洗濯物がソファーに山積みになっている。
・ベランダにものがいっぱい置いてある。
・冷蔵庫の中が乱雑で臭いがする。
・来客があるかも、という意識がないようだ。訪ねてきた人も玄関で対応する。
3) 掃除
・掃除機を使用した形跡がなく、家の隅にほこりがたまっている。
・食器棚にうっすらとほこりがたまっている。
・ゴミの分別がいいかげんになっている。
・台所のシンクに使った食器を置きっぱなしにしている。
・お風呂に入る回数が減ったようで風呂場がかびくさい。
・二階にはほとんど行かないようで、カーテンを閉め切って空気がよどんでいる。
4) ガーデニング
・庭に雑草が伸びている。
・花壇の枯れた植物を放置している。
・以前いろいろな野菜を作っていた菜園スペースは雑草が伸び放題になっている。
5) 外出・買い物
・一緒に出掛けようと言っても「あんたたちで行っておいで」と断る。
・外出するといえば近所のスーパーぐらい。
・以前は夫婦で年に1回は行っていた海外旅行にぱったり行かなくなった。
6) 近所づきあい、会話
・回覧板がきても放置している。
・庭先で近所の人に会っても挨拶がいいかげんになった。
・自分のことばかり話す。自慢話が多くなった。
7) 服装、おしゃれ
・同じ服ばかり切るようになった。
・父親はパジャマ姿でいることが多くなった。
・お化粧をしなくなった。
・髪が伸びている。
3. 家事力の低下の原因
家事力低下の原因は生活不活発病や、脳梗塞の初期の症状が疑われる場合があります。
そこまでいかない場合は、家事をするモチベーションや気力の低下や、物を持つ、運ぶ、栓をねじるなどの筋力の低下が考えられます。
<生活が不活発になってきている>
・うごきづらい
・立ち続けるのがつらい
・歩くのが遅くなった
・買い物が重くて大変
・疲れやすくなった
不活発病の見つけ方
以前に比べてできなくなったことを探します。
例;
・旅行好きだったが、頻度が減った。
・毎月行っていたイベントが減った。
・習い事に行かなくなっている。
・以前はチリ一つないほど綺麗好きだったのに、掃除が行き届いていない。
・凝った料理を作らない。
など、いろいろ気になるところがあると思います。
「しなくなったことはある?」と聞いてみると「そんなことはない。」と答えることが多かもしれません。
しかし、毎日の生活を細かく時間を含め、生活の不活発状況やその原因となっていることをじっくり聞いてみましょう。
その原因を探ると家族の転勤や病気がもとで、外出の機会や行動が減ってしまっているのかもしれません。
きっかけは小さなことだったとしても、体を動かさずにいると生活の不活発病になってしまいます。そして生活が不活発になると疲れる、疲れると不活発になるという悪循環になってしまう。
周りにいる人が親の生活の不活発に気がつくことが大切です。
対策法や改善法
生活不活発病は、やる気がなくなってくるのが一番の原因ですのでなるべく親が元気になるような、やる気が出るようなことをしましょう。
・興味を持っていることや得意なことを聞いて教えてもらう。
・楽しくやりがいを増やす活動を増やす。
・孫と一緒に楽しめることをさがす。たとえば運動会に招待する。
など、小さいことをきっかけに活動を増やすようにしましょう。楽しめる、気持ちが上がる方法を考えましょう。
年相応と決めつけない。心配しすぎないことも大切です。
<家事をするモチベーションの低下>
子どもが成人して家を出た後に主婦に抑うつ症状が出る「空の巣症候群」が話題になったことがありますが、夫婦だけあるいは一人住まいの高齢者世帯はその意味ではまさに「空の巣」です。
父親に社会との関わりがなくなるにつれて、母親も家事をするモチベーションが低下することがあります。
子供を育て上げて、退職して、いわば人生の目標を果たし終えたのが老人です。この先のこれといった目標がないというのも当然といえば当然ですが、目標のない生活では家事をきちんとこなすモチベーションを維持するのも難しくなります。
<筋力の低下>
人は75歳を超えると筋力が急速に低下します。筋肉は80歳でも90歳での鍛えることができますが、運動量の低下を放置すると70代後半からは筋肉がどんどん細くなるのです。
最初に衰えてくるのがふくらはぎや太もものなど下肢の筋肉です。足の筋肉が衰えると歩くこと、動き回ることがおっくうになり、他の筋力の低下にも拍車をかけることになります。
次に衰えるのが、手指、腕、肩の上肢の筋肉です。上肢の筋肉が衰えると、瓶のふたを開ける、雑巾を絞るなどの家事が苦手になってきます。老人性関節炎などで指の関節が痛むとほとんど力を出せない場合もあります。
筋肉は年を取っても鍛えることができます。できるだけ運動をすることで筋力を鍛えて不活発にならないようにすることができます。
4. 生活不活発病の予防、実家の親の家事のモチベーションを高めるには
「最近家の中が汚いわね」とか「お母さんの料理はだんだん手抜きになってたみたい」などと言ってはすぐに親子ケンカになるし逆効果です。
家事は一見プライベートなことのようですが、そのモチベーションは「社会性」にあります。何事もきちんとしなくてはという気持ちを持つためには「自分の力が必要とされている」という意識が必要で、その意識が心の老化を防いでくれます。
例えばできる範囲で何かのボランティア活動に参加して、困っている人のために努力する、見返りを求めずに社会のために尽くすことで、わが家の家事に対する考え方も積極的になることが期待できます。
夏休みなどに子どもをしばらく親に預けてみるのもいいかもしれません。「田舎の暮らしを味あわせたい」「なかなか躾ができないから、お母さんお願い」と頼まれれば親も家事をいいかげんにすることはできなくなります。
また、食生活にも気を配ることが大切です。
年寄りだからと言わないで、栄養バランスのとれた食事がとても重要です。
高齢者で健康な人はお肉料理が好きな人が多いと言われています。良質なタンパク質を取ることで、元気になり健康に過ごすことができます。
5. 生活不活発病を予防する住まいの工夫
無理せず家事を続けるには使いやすい家事動線が大切です。
ものを収納するのがだんだん億劫になってついつい床にものを置きがちになりますが、なるべくものを床に置かない、積まないようにしましょう。
無駄のものを置かないと、仕事に集中できるし、掃除が簡単になります。
よく使うものは使いやすい位置におく。
頻繁に使うものは手の届く位置(ゴールデンゾーン)におくことが大切です。
使いやすいくなり、家事をしやすい住まいにすることができます。
生活不活発病になりやすい原因を取り除くことを考えましょう。
6. 家事力をアップする住まいの工夫
老人の家庭内での転倒事故を減らすために床の段差を解消するなどのバリアフリー住宅があります。バリアフリーは老人の行動をスムーズにして家事力をアップするのに役立ちます。
何より動くことに対する不安が少くなるのがメリットです。しかし、楽になりすぎて注意力が低下したり、筋力の低下を助長する面があることにも一応頭に入れておきましょう。
ある老人介護施設では居間にわざといろいろな障害物を置いて、そのハードルをクリアすることで老化の進行をふせいでいるそうです。
もっともこれは要介護度認定のご老人の話で、動くに気になればまだまだ動ける実家のご両親とはあまり関係がないことかもしれません。
1) 照明を明るくする
高齢になると筋力だけでなくて視力も衰えます。とくに家事力に関係するのが薄暗い所で物が見えにくくなることです。これは目の水晶体の透明度が下がって弱い光が網膜に届かなくなるからです。視神経の光に対する感受性が低下するのも原因の1つです。
リビングやキッチンを明るくすることは、料理や整理整頓・掃除をする動機付けにつながります。
LEDの調光可能なリモコン付き照明は、必要に応じて光の色や明るさを変えられます。LED電球に比べて寿命も長く省エネです。
廊下と階段はどこの家庭でもあまり明るい照明を使用しない傾向がありますが、高齢者世帯ではいちばん注意すべきポイントです。足元が薄暗い廊下や階段は転倒の危険があるし、高齢者を不安にして行動を抑制してしまいます。
同様の意味で、玄関や風呂場も照明も明るくすることが必要です。
2) 動線を整える
キッチンとリビング、リビングと浴室など、暮らしの中で必要な移動をするコースを「生活動線」と呼びます。生活動線がむだなくスムーズなほど家事は楽になります。
生活動線をチェックするには、例えば洗濯なら家の間取り図を見ながら「洗う」「干す」「しまう」という一連の動作が、無駄のないシンプルなラインで描けるかどうかを確認します。
「しまう」場所があちこちに散在していて何度も往ったり来たりしなければいけないようでは、良い動線とは言えません。
買い物→冷蔵庫→調理→食卓→食器洗いという動線も同じようにチェックできます。
本格的に動線を修正するには家のリフォームが必要になりますが、冷蔵庫の位置を変えたり、洗濯物の収納場所を変えるだけでも「家事力のアップする生活動線」にすることが可能です。
動線を整えることに関して1つ気を付けたいのは、床に物を置かないことです。通路や家具の前にいろいろなものが置いてあるのでは、動線をスムーズにする効果が半減してしまいます。
3) 収納の工夫
ひんぱんに使う衣類の収納場所は上下に仕分けするのではなく、胸のあたりで水平に仕分けてできるようにすると、洗濯物の片づけが楽になります。
食器の収納も同じです。ひんぱんに使用するものはしゃがんだり背伸びしたりする必要がない位置に収納するのがコツです。
ただしここでも、あまり楽にしてしまうと運動量が低下するというジレンマがあるので、判断が難しいところです。
4)手すりの設置
生活動線に沿って手すりを設置すると、転倒防止になり移動の際の安心感が増します。
手すりを設置する場所の優先順位は次のようになります。
① 階段
② 風呂場
③ トイレ
④ 玄関のあがり口
⑤ 廊下
⑥ リビング
階段の手すりは必須で、すでに設置してある家庭が多いと思います。
風呂場とトイレも立ったりしゃがんだりする所なので手すりが必要です。とくに風呂場もトイレも利用しているときに血圧が変化する場所なので重要です。
手すりの高さは身長によって加減しなければいけませんが、廊下は75㎝から85cmくらいが目安です。杖を持ったときの手の位置が適当とされています。
手すりの設置費用は要介護が認定されると90%が介護保険から支払われますが、自費で設置する場合は上記のすべての場所に設置して15~20万円くらいが目安です。
ネットで「手すり設置」と検索するとリフォーム業者のサイトがたくさん立ち上がります。そこで相場を調べて見積もりを取ってみましょう。
要介護に認定されていなくても自治体によっては手すりの設置に補助金を出しているところがあるので、設置前に市町村の役場に相談してみましょう。
例えば奈良県の生駒市では、手すりの設置や段差の解消などのバリアフリー改修工事に、費用の1/3(上限18万円)を補助しています(市民税非課税世帯は2/3)。
5)リフォームをする
古い家では、若いころなら何の問題もなかった、部屋の段差、和式トイレ、深い浴槽などが体力の衰えなどで負担になってきます。
高齢者にも使いやすい浴室やトイレに変えることで負担が減ります。ユニバーサルデザインの設備機器がたくさんあります。毎日の食器洗いの負担を減らすことができる食器洗浄機や全自動洗濯機なども活用するといいかもしれません。
暗くて使いにくい家を、明るくて使いやすい家にリフォームすることで、作業がしやすくて暮らしやすい住まいにできます。
リフォームするには相談できるリフォーム業者選びが大切です。こちらの記事を参考にしてください。
<【リフォーム業者選び】失敗しない一括見積サイト活用法>
おわりに
高齢になると、体力気力が衰えてきます。家事力の衰えが感じられるようになってきて心配になることも多くなるでしょう。
そんな時に責めたりするのは逆効果です。使いづらい住まいのせいで家事力が落ちているのかもしれません。
暮らしやすく家事のしやすいに住まいにすることができれば、家事力の低下を防ぐだけでなく、健康で安心な生活を送ることができます。
いつまでも元気で暮らせる住まいが大切です。住まいを見直してみてはいかがでしょうか。
高齢者の住まいを改善するためにはこちらの記事も参考にしてみて下さい。